チフスのメアリーとは?チフス菌の健康保菌者の生涯

話題

チフスのメアリー(腸チフスのメアリー)とは、1900年代初頭にニューヨークで多発した腸チフスの一因と考えられている女性で、本名はメアリー・マローン、アイルランド出身の料理人です。

メアリーは、チフス菌の健康保菌者で、彼女が最初に病院に隔離される前、彼女が関与した腸チフスの感染者は判っているだけで22人(そのうち1人が死亡)におよびます。

その後、条件付きで隔離を解かれたメアリーは、偽名を使用しある産婦人科医院に料理人として勤務し、25人の腸チフスの感染者(そのうち2人が死亡)に関与し、再び病院に隔離され二度と隔離を解かれることはありませんでした。

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健康保菌者とは

「細菌やウイルスに感染を受けたにもかかわらず、感染症状を発症していない保菌者」を健康保菌者とよびます。

健康保菌者は、連鎖球菌、肺炎菌、ジフテリア菌、梅毒スピロヘータ、日本脳炎ウイルスなどにみられます。(参考:日本大百科)

メアリー・マローンは、死後の病理解剖で、胆嚢(たんのう)にチフス菌の感染巣があったことが、判明しています。

チフス菌の胆道系保菌者は、放置すると永続的に糞便中に排菌し続けます。

健康保菌者に排菌の自覚がなく、周囲にも気づかれることがないので、チフスのメアリーのような人が出てくる可能性は現在もあります。

現在、エボラ出血熱がアフリカで流行し、死者数が増え続けています。

エボラウイルスの根源は、いまだにはっきりしていません。

チフスのメアリーのようなエボラウイルスの健康保菌者の報告もありませんが、原因不明の恐ろしい疾病が出てくるたびに、チフスのメアリーは話題にのぼります。

チフスのメアリーの生涯

1869年9月23日:イギリス統治下のアイルランド島で生まれる

1883年 :14歳で単身ニューヨークに移住。

~1900年頃  :家事使用人として生活。

1900年~1907年:住み込み料理人として生活。

住み込み料理人としての約8年間、判明しているだけでメアリーの身辺で22人が腸チフスに感染し、そのうちの1人が死亡しています。

当時のニューヨークで、腸チフスはそれほど珍しい疾病ではありませんでしたが、腸チフスの原因を調べていた衛生士ジョージ・ソーパーによって、メアリーは疑われることになります。

1907年:ノース・ブラザー・アイランド(イーストリバーにある島)の病院に隔離される。

ニューヨーク市衛生局の検査の結果、メアリーの便からチフス菌が検出され隔離されます。

1909年:ニューヨーク市衛生局に対し、隔離中止を求めて訴訟。

メアリーは敗訴しますが、世間の注目を浴び『Typhoid Mary(腸チフスのメアリー)』と呼ばれるようになります。

1910年:病院から解放される。

「食品を扱う職業に就かないこと」「定期的に居住を明らかにすること」を条件に、自由の身となります。

1915年:再び、ノース・ブラザー・アイランドの病院に隔離される。

偽名を使用し料理人として働いていたニューヨークの産婦人科医院で、25人が腸チフスに感染し、そのうち2人が死亡、メアリーの関与が確認され再び隔離されます。

1938年:没

1915年に隔離されて以後、死ぬまで彼女はノース・ブラザー・アイランドの病院から出ることはなかったようです。

死後、病理解剖の結果、胆嚢(たんのう)にチフス菌の感染巣があったことが判明します。

腸チフスの予防と治療法

腸チフスは、チフス菌を原因とする、生命を脅かす感染症です。細菌を含んだ食べ物や水をかいして広がります。

高熱、疲労感、頭痛、嘔気、腹痛、便秘、下痢などの症状があります。重症になると、重篤な合併症を起し、死に至ることもあります。

2017年12月にWHOによって、生後6ヶ月以上の小児に使用でき長期にわたり免疫を持続する新しい結合型・腸チフス・ワクチンが事前認定されました。腸チフスの予防にはワクチンが有効です。

厚生労働省では、『腸チフスのリスクの高い地域に向かう旅行者には、腸チフス・ワクチンを接種しておく必要があります。』としています。

腸チフスは抗生物質で治療できます。

症状がなくなっても、チフス菌の保有者であることがあります。腸チフスの治療を受ける人は、体内にチフス菌が残っていないことの確認検査をすることが重要です。

(参考:厚生労働省検疫所FORTH/腸チフス

腸チフスのリスクのある地域

腸チフスのリスクが高い地域:アフリカ大陸・インド

腸チフスのリスクのある地域:中東・東南アジア・中国・中南米など

まとめ

チフスのメアリーに悪意はありませんでした。

自分に症状がないのに、チフス菌の保菌者だと断言されても納得がいかなかったのでしょう。メアリーは、ニューヨーク市衛生局に激しく抵抗し、逃げ惑っていたようです。

当時は腸チフスに関する知識も乏しく、メアリーはチフス菌を保有したまま隔離を解かれ、新たな被害者を出します。

現在のような治療法があり、腸チフスを予防することができたなら、メアリーは他人に迷惑をかけることもなく、隔離されることもなく、料理人として楽しい人生を送れたに違いありません。