「次に刺されたら、死ぬかも知れませんよ」医者の一言に衝撃を受けました。たかが2.3cmの昆虫に人間は本当に殺されます。
私は幸いにして助かりましたが、スズメバチ刺傷による死亡者数は、日本全国で毎年20人程度います。
私がスズメバチに刺されたのは、7月末、北海道むかわ町の山林です。私を襲ったスズメバチは、攻撃性が非常に強いケブカスズメバチ(キイロスズメバチ)です。
秋に凶暴になるといわれるスズメバチですが、刺激すると季節など、おかまいなしで襲ってきます。
北海道に生息するスズメバチの種類
スズメバチとは、ハチ目スズメバチ科に属する昆虫の総称です。
北海道では、毎年、夏から秋にかけてスズメバチによる被害が報告されます。
とくにお盆の時期を過ぎたころから、スズメバチの活動が活発になるので、野外での活動には十分な注意が必要です。
オオスズメバチ
オオスズメバチは、北海道から屋久島まで広く生息します。
体長は、女王バチは40-55mm、働きバチは27-40mm、雄(オス)バチは27-45mmです。頭部はオレンジ色で、腹部は黄色と黒の縞模様です。
日本に生息するハチの中で最も強力な毒をもち、非常に攻撃性の高いハチです。
北海道では9月~10月に刺傷被害が多く発生します。
ケブカスズメバチ
ケブカスズメバチは、北海道から屋久島まで広く生息します。本州以南に生息する亜種はキイロスズメバチと呼ばれます。
体長は、女王バチは25-28mm、働きバチは18-24mmです。頭部は黄色で、腹部は濃褐色と黄色の縞模様です。
攻撃性が非常に高く、スズメバチ類の刺傷被害が最も多いハチです。
北海道に多く生息するスズメバチで、8月~9月に集中的に刺傷被害が発生します。
コガタスズメバチ
コガタスズメバチは、北海道から沖縄県まで日本全国に広く生息します。
体長は、女王バチは25-29mm、働きバチは22-27mmです。見た目はオオスズメバチに似ています。
攻撃性は低く、刺されることが少ないハチです。民家の軒下などに巣を作ることが多く、巣を刺激すると刺されます。
クロスズメバチ
クロスズメバチは、北海道から奄美大島まで広く生息します。
体長は、女王バチは15-16mm、働きバチは10-12mmです。頭部は黒く、腹部は黒色に白の縞模様です。
「ジバチ」とも呼ばれ、毒性は弱いと言われています。北海道では低地の森林に多く生息しますが、民家の屋根裏や床下換気口などに巣をつくることがあります。
スズメバチの生態
女王バチの寿命は約1年、働きバチ寿命は1から2ヶ月、雄バチの寿命は約1ヶ月です。
巣の門番をしているハチや巣を刺激すると、働きバチに攻撃され刺されます。
私は気づかずに、門番のハチを刺激したようで、数匹のスズメバチに襲われ、身を低くして逃げたものの、2発スズメバチに刺されて病院に運ばれました。
スズメバチの一生
4月から5月にかけて、越冬した女王バチが一匹で巣づくりを始めます。
女王バチはたった一匹で、巣をつくり、卵を産みます。働きバチが羽化するまでの約1ヶ月の間は、たった一匹で育児をし巣を守ります。
雨が少なく、気温が高いと、羽化に成功しやすいので、スズメバチが多くなり、雨が多く、気温が低いと、羽化に失敗しやすく、スズメバチは少なくなります。
7月から8月にかけて巣は急成長し、働きバチの数は一つの巣で数百匹になります。9月ころには、来年女王バチになる新女王バチと、生殖虫の雄バチが誕生します。10月から11月下旬にかけて、新女王バチと雄バチは巣を離れ、異なる巣で誕生した配偶者と結ばれます。
新女王バチは、受精のうという袋に雄バチから受け取った精子をため込んで、朽木や土の中で越冬します。
女王バチは、新女王バチと雄バチを産むと、その一生を終えます。
働きバチは、巣を大きくし、敵から巣を守り、エサを運び、1ヶ月から2ヶ月で、一生を終えます。
雄バチは、新女王バチと交尾をしたのち、越冬することなく、一生を終えます。
なぜ人を刺すのか
働きバチは雌(メス)ですが自分では卵を産みません。働きバチは自分が犠牲になっても巣を守り、自分の姉妹を守ることで、自分の遺伝子を残そうとします。
スズメバチの巣の出入り口には門番がいます。門番は巣に近づいてくるものがあると、敵かどうかを見極めるために、まとわりつきます。
身にまとわりつかれた時に、手で払ったりすると「敵」と思われ、刺されたり毒液を針先から噴射されます。働きバチの毒液には、「敵がきた」ことを知らせる【警戒フェロモン】が含まれています。
警戒フェロモンを感じると、働きバチは周囲の動くものに攻撃を開始します。
スズメバチの働きバチは、命がけで巣の中の、血縁個体を守ろうとします。巣を刺激するとスズメバチに攻撃されます。
スズメバチに刺された体験談
今年7月の末に北海道むかわ町の山林でスズメバチに刺されました。
その日は、気温が30度を超える、真夏日。
笹深いカラマツ林の中、急斜面を笹につかまりながら、仲間と二人で目的地を目指し登ります。足元が滑るので、必死に笹につかまりながら、進んでいると右手の甲に、いままで感じたことのない激しい痛みを感じたので、手を見るとそこには何もいません。
前に進もうと左手で笹をつかむと、今度は左手の甲に激しい痛み。手を見ても何もいなく、虫の羽音もしません。
無意識のうちに大声で「痛ってぇ」て叫んでいました。叫び声に気づいた相棒が、振り返り私を見るなり、「ハチだ!逃げろ」と叫びます。
とにかく身を低くし、必死で笹の中を進み、集材路まで逃げました。逃げてきた所を見ると、そこには体長2・3センチのスズメバチが数匹、飛び回っています。
相棒と合流し、話を聞くと、私が叫んだとき、私の周りには、5・6匹の「*アカバチ(ケブカスズメバチ)」がいたらしく、ヘルメットを攻撃していたようです。
手の甲を見ると、真っ赤になって腫れています。今年は「クロスズメバチ」に、2回刺されていたけど、「ケブカスズメバチ」は痛みといい、腫れといい、桁違いにすごいです。
チクッていう痛みではありません。ドンッっていう痛みです。強いて表現するなら、「釘を手の甲に打たれた」ような痛みです。
車に虫刺されの薬があるので、一度、車に戻ることにしました。15分ほど歩いて車につき、薬を塗って、相棒のいる所に戻ろうと2・3分ほど歩いた所で、胸が苦しくなり、しゃがみこんでしまいました。
日差しが強く、気温が高く、胸が苦しく、体を動かすことができません。それでも何とか助けて欲しくて、車までもどり、クラクションを鳴らします。動くことが苦しいので、車の横で、寝ていると、相棒の声がします。
すぐに車に乗せられ、一番近くの街の診療所に行きました。ハチに刺されてから、1時間半以上経って、診療所についた時には、気分も良くなり、胸も苦しくありませんでした。
診療所では、血圧を測り、脈を測り、腫れてる部分を確認しました。刺された時には、刺された周りだけが赤く腫れていましたが、診療所で見たときは、手の甲全体が腫れていて、手首と肘の中間くらいまで、赤く変色していました。
診察の結果は、「刺されてから時間が経っていて、ショック状態からぬけているので、もう大丈夫ですよ」とのこと、
安心していると「ただし、今度ハチに刺されたときは、30分以内に病院に行って下さい。30分を過ぎると手遅れになることもありますよ。」と医者。
おそるおそる、「今度、ハチに刺されたら、死ぬんですか?」と聞くと、あっさりと「次に刺されたら死ぬかも知れませんよ」と医者から衝撃の一言が。
「山にいたら30分で病院なんて無理です。どうすれば良いんですか?何もせずに死ぬだけですか?」と聞くと、「蜂毒のアナフィラキシーショックを防ぐ、エピペン(自己注射薬)を用意したほうが良いですよ。刺された時、すぐにエピペンを注射すれば、死なずにすみます」と医者。
「エピペンないと死にますか?」「死ぬかも知れません」・・・
その日は、塗り薬を患部に塗って、アレルギーをおさえる飲み薬を飲みました。3日も経つと、患部の赤い変色がなくなり、腫れも大分引きました。
ケブカスズメバチに刺されてから5日後、腫れは刺された所の周りだけのごくわずか、若干かゆみが残る程度に回復したので、近所のスーパー銭湯に行きました。
サウナに入り、水風呂に入り、ゆったりと露天風呂に入り、外で涼んでいるときに気づきました。両手の手首までが、赤く変色し、少し腫れています。急いで帰宅し、塗り薬を塗り、寝ました。次の日、目覚めると、腫れもひき、赤い変色もなくなっていました。
私の症状は、全身症状の「中くらいの症状」になるようです。
過去に数回、「クロスズメバチ」に刺されていますが、少し痛く少し腫れる程度だったので、ハチをバカにしていました。
医者が言った一言、「次に刺されたら死ぬかも知れませんよ」はショックでした。
ハチごときで人間が死ぬ可能性があると思うと、「人間って弱い生き物」だなぁって実感します。
いま後悔しているのは、ただ一つ「次はどんなスズメバチに刺されても死ぬ可能性があるのか」を医者に聞かなかったことです。
*アカバチ:北海道の一部の地域では、ケブカスズメバチ(キイロスズメバチ)のことをアカバチと呼びます。
アナフィラキシーショックへの備え
アナフィラキシーショックはアレルギー反応の一つです。
ハチ毒によるアレルギーは、刺されてから短時間で症状が現れるのが特徴です。アナフィラキシーの症状が出てから心停止までの時間は15分という報告があります。
スズメバチに一度刺されると、抗体というタンパク質ができます。ハチ毒を異物として捉える抗体がある体で、もう一度刺されると「アナフィラキシーショック」というアレルギー症状を起こします。
症状が重くなると、血圧低下や呼吸困難を招いて最悪の場合は死に至ります。
短期間に2回ハチに刺されるとアナフィラキシーショックを起こしやすいという調査がある一方で、複数回刺されててもアナフィラキシーショックを起こさない人もいるし、初めて刺されてもアナフィラキシーショックを起し死に至ったという報告もあります。
自己注射薬の携行
山林で刺された場合に、30分以内に病院に行くことは不可能です。
スズメバチに一度刺されたことがある人は、医者に自己注射薬「エピペン」を処方してもらい、携行する必要があります。
関西医科大学救急・災害医学の鍬方主任教授は「命と引き換えと考えれば、刺されたときはちゅうちょせずにすぐに(エピペンを)使うべきだ」とアドバイスしています。
エピペンは成分のアドレナリンが、血圧を高めてショック状態を和らげてくれるので、救急処置として効果的な自己注射薬です。
見た目がごつく、自分で太ももに刺すのには、勇気がいりますが、いざという時は使いましょう。
スズメバチから身を守る
スズメバチの事故の多くは巣の近くで起きています。スズメバチに刺されたくないなら「巣に近づかない」ことです。
しかし、山林の他にも、公園や民家にもスズメバチの巣はあります。また、ほとんどの刺傷事故は、巣に気づかずに起きています。
林業・木材製造業労働災害防止協会では、「黒地の着衣、毛皮等は、巣の近くでは攻撃を受けやすいので、蜂を刺激するような衣類、匂い等は避けること」とし、次のように解説しています。
○スズメバチは、衣類だけでなく、黒い長靴、カメラ等も攻撃します。
○ハチは、ヘアスプレー、ヘアトニック、香水等の化粧品、体臭などに対して、敏感に反応します。
○野外でジュースを飲む時もハチに注意します。ジュースや飲料水の残りの液を餌にしているスズメバチを見受けます。飲んでいるとき、近寄ってきて缶の中にもぐり込み、口や唇を刺されることがあります。
林業・木材製造業労働災害防止協会「蜂の種類とその対策」より一部抜粋
石狩市のホームページでは、被害を防ぐ方法を次のように紹介しています。
● 室内や車内にハチが入ってきた場合は、窓を開けて出て行くのを待ちます。ハチは明るいへ向かう性質があるので、そっとしておけば自然に外に出ていきます。叩いたり追い掛け回すのはやめましょう。また、野外でハチを見かけたら、静かにその場を離れましょう。
刺されにくい服装について
● スズメバチは、動く黒い物体に反応します。野外では白や黄色の服装を心がけ、帽子をかぶり、首にタオルを巻いたり、軍手をはめるなど、露出部分を少なくするのが効果的です。
石狩市ホームページ「スズメバチにご注意下さい 被害を防ぐには」より一部抜粋
どちらもスズメバチが「黒い物体に反応するので黒い衣服を避けるように」ということですが、私は白っぽい作業着を着ていてスズメバチに攻撃されました。
「香水等の化粧品や体臭に敏感に反応する」というのは、スズメバチが「敵がきた」時に知らせる【警戒フェロモン】に、アルコールやエステルなどの揮発性の高い香気成分を含んでいるからです。
石狩市のホームページでは、「軍手をはめる」のが効果的としていますが、私は軍手の上からスズメバチに刺されました。
スズメバチから身を守るのに一番効果的なのは「巣に近づかない」ことです。
黒色以外の衣類を着ていても、スズメバチに攻撃されることはあります。白色の衣服を着ているからといって過信しないことです。
スズメバチを目撃したら、速やかにその場を離れます。
門番のスズメバチに、まとわりつかれても、手で払ったり刺激をしてはいけません。「そっとしゃがんで、ハチが去るのを待ちます」私はこの方法で、今まで何度も難を逃れています。
まとめ
スズメバチに刺されると、恐ろしく痛いです。たかが2・3センチの虫だとバカにしていると、本当に死にます。
8月~9月ころにスズメバチの数がもっとも多くなり、スズメバチによる被害がもっとも多くなりますが、私は7月に刺されました。
働きバチを刺激すると、季節に関係なく、刺される可能性があります。
スズメバチの働きバチは、命がげで自分と同じ遺伝子をもつ血縁個体を守ろうとします。そのため「敵」がどんなに大きくても巣を守ろうと攻撃してきます。
私は過去に数回、「クロスズメバチ」に刺された経験がありますが、この度「ケブカスズメバチ」に初めて刺されました。左右の手の甲を刺され、軽いショック状態になり、診療所に行きました。
医者には「次にハチに刺されたら死ぬかもしれない」といわれています。かもなので、死なない可能性もあります。
ケブカスズメバチに刺されたとき、私は白っぽい衣類を着て、手には軍手をはいていました。
黒い衣類を着ていなくても、ハチを刺激すると刺されます。私は軍手の上からハチに刺されました、今は分厚い革手をはいています。化繊程度の衣類ではハチに刺されます。
刺された時の救急処置として「エピペン」を携行し、いざという時に備えなければいけません。
いつかは死ぬんだろうけど、山中でひっそりと、「スズメバチに刺されて死ぬのは嫌だ」としみじみ思います。北海道の山中で死んだら、間違いなくヒグマの食事だもんね・・・。