ステーキとは、肉を厚めに切って焼いた料理で、古くは「テキ」とも呼ばれていました。
カタカナの「トンテキ」は「豚肉のステーキ」の一般的な呼び名です。平仮名の「とんてき」は、三重県の食堂『來來憲(らいらいけん)』の登録商標です。
「ビフテキ」は「ビーフ(牛肉)ステーキ」のことです。現在は、単に「ステーキ」というと「ビーフステーキ」を指し、「ビフテキ」という人はあまりいないようです。
ステーキとは
ステーキは、「厚めに切った肉を焼いた料理で、特にビーフステーキのこと」です。特に牛肉(ビーフ)を焼いた料理をステーキといいますが、サーモンステーキのように魚類を厚めに切って焼いた料理や、大根ステーキのように野菜を厚めに切って焼いた料理もステーキといいます。
英語のステーキ(steak)の語源は、古ノルド語(主に中世の北欧で使われた語)の「steik(ステイク)」で、中世の北欧では主に鯨肉のsteikを食べていたようです。
米国でも単にステーキと言うと「ビーフステーキ」を指します。英語で牛肉を指す「ビーフ(beef)」の語源は、古フランス語「buef(現在はboeuf)」です。「beef steak(ビーフステーキ)」は、古フランス語の「buef」と古ノルド語の「steik」が合わさった英語です。
日本で牛肉が食べられるようになったのは、明治時代に入ってからです。
明治の初期には、牛肉を甘辛いタレで煮込む「牛鍋」が登場し、牛肉は美味しい「牛鍋(すきやき)」とともに、全国に広がっていきます。
そのころ「ビーフステーキ」もありましたが、厚切り肉のボリュームと、血がしたたる生々しい料理は、当時の日本人には受けいられなかったようです。
「牛鍋」のおかげで牛肉は美味しい肉と認知されるようになると、牛肉は様々な方法で調理されるようになります。
明治の後半になると、牛肉は人気の食材となり、なかでも「ステーキ」は見た目の豪快さから「ご馳走」として人気の料理になります。
このころ「ステーキ」は「ビフテキ」と呼ばれていました。
トンテキとは
トンテキとは「豚肉のステーキ」のことです。
「ビフテキ」よりあとに登場した「トンテキ」は、勘違いによって名付けられた料理という説があります。
現在も多くの人が「ビフテキ」は「ビーフステーキ」を略した言葉と勘違いをしています。「豚肉のステーキ」が登場した当時も、多くの人が勘違いをしていて「ビーフステーキ」を略して「ビフテキ」なので、「豚肉のステーキ」を略して「トンテキ」としたという説です。
「ビフテキ」によせるなら「豚肉」を英語の「ポーク」にかえて「ポクテキ」になりそうですが、豚を「トン」として「トンテキ」とした理由はわかりません。豚(ぶた)汁をトン汁と呼ぶのと同じ感じで「トンテキ」と呼んだのかも知れませんね。
「トンテキ」と似た料理に「ポークソテー」があります。
どちらも豚肉を焼いた料理で、絶対的な違いはありませんが、「トンテキ」が名物の四日市では「トンテキ」と呼ぶのに4つの定義があり、「ポークソテー」との差別化をしています。
2.黒っぽい色の、味の濃いソースが絡んでいる。
3.ニンニクが添えられている。
4.付け合せは千切りキャベツが主である。
この4つの定義全てを満たしたものを四日市では「トンテキ」と呼び、定義の一つでも満たさなければ「ポークソテー」と呼びます。
三重県の食堂『來來憲』が昭和30年代に「とんてき」をはじめたのが「トンテキ」のはじまりという説があります。
カタカナの「トンテキ」は「豚肉のステーキ」の一般名称で、平仮名の「とんてき」は『來來憲』の登録商標です。
「とんてき」誕生より前に、「厚切りのポークソテー」を「トンテキ」と呼んでいたという説もあります。
豚肉には、肥満をさけ疲労回復を促す「代謝」に必要なビタミンB1が多く含まれ、ニンニクにはビタミンB1の吸収を高める「アリシン」が多く含まれます。
「トンテキ」は、疲れた時にお勧めのスタミナ料理です。
ビフテキとは
ビフテキとは「ビーフ(牛肉)ステーキ」のことです。
「ビフテキ」の由来は、ステーキという意味のフランス語「bifteck(ビフテック)」にあります。
多くの人が「ビフテキ」は「ビーフステーキ」の略だと勘違いしていますが、「ビフテキ」はフランス語の「ビフテック」を日本語風に発声したものです。
明治の後半から大正時代にかけて「ビーフステーキ」は、レストランで提供され「ビフテキ」として親しまれます。当時のビフテキは、薄めの肉を醤油やみりんなどのタレで味付けをし、中までしっかりと焼いたものが多かったようです。
明治の後半、「ビフテキ」の価格は7銭でした。小学校教員の初任給が10円~13円で、「うどん・そば」が2銭だった明治の後期に、7銭のビフテキは庶民の「ご馳走」でした。
ご馳走として定着した「ビフテキ」は、明治後期から大正末期にかけて、名だたる小説に登場します。
明治34年(1901年) 国木田独歩の短編小説『牛肉と馬鈴薯』
「だってねェ、理想は喰べられませんものを!」と言った上村の顔は兎のようであった。
「ハハハハビフテキじゃアあるまいし!」と竹内は大口を開けて笑った。
明治40年(1907年) 夏目漱石の中編小説『野分(のわき)』
「(略)おおいに西洋料理でも食って――そらビフテキが来た。これでおしまいだよ。君ビフテキの生焼きは消化がいいっていうぜ。(略)」
大正12年(1923年) 江戸川乱歩の処女作『二銭銅貨』
(略)しばらくすると近所の洋食屋から取ったビフテキか何かを頬張っていた所の支配人の前へ(略)
大正15年(1926年1月) 宮沢賢治の短編童話『オツベルと象』
(略)ひるめしどきには、六寸ぐらいのビフテキだの、雑巾ほどあるオムレツの、ほくほくしたのをたべるのだ。(略)
明治後期から昭和初期まで「ビーフステーキ」は「ビフテキ」として認知され親しまれますが、戦争とともに姿を消します。
第二次世界大戦終了後、アメリカの影響で「ステーキ」を食べる風習が広がり、レストランのメニューは「ビフテキ」から「ステーキ」へと変わっていきます。
現在は、戦後生まれの人がほとんどなので、昔ながらの「ビフテキ」を知る人はほとんどいません。
おじいちゃん・おばあちゃんから「ビフテキ」の話を聞いて、あるいは明治・大正期に書かれた小説などの書物で知って、「ステーキ」を「ビフテキ」と呼ぶ人がいて、現在まで「ビフテキ」という言葉が残っていると思われます。
まとめ
「トンテキ」は、「豚肉のステーキ」の一般的な呼び名です。「ビフテキ」は「ビーフ(牛肉)ステーキ」の呼び名で、現在はほとんどの人が「ステーキ」といいます。
「ビフテキ」の由来は、フランス語でステーキを意味する「bifteck(ビフテック)」です。「bifteck」を日本語風に発声して「ビフテキ」になりました。
ビフテキより後に登場した「トンテキ」の由来は、「ビフテキ」の由来を「ビーフステーキを略したもの」という勘違いにあります。
「ビーフステーキ」を略して「ビフテキ」と呼んだと勘違いし、「豚肉のステーキ」を略して「トンテキ」にしたようです。
現在「トンテキ」は三重県四日市市の名物料理として人気です。
現在「ビフテキ」は「ステーキ」におされ死語になりつつあります。