「いずい」は北海道や宮城県など東北地方の一部で使われる方言です。
方言には、共通語や標準語では、上手く表現できない面白い言葉が数多くあります。「いずい」は、そんな方言の代表的な言葉で、「いずい」を使わない地域の人に、その意味を説明するのは、とても骨が折れます。
「不快な感じがする」というのが、一番近い意味になりますが、「いずい」には共通語では言い表すことのできない微妙な意味合いが含まれます。
北海道で生活していると、しょっちゅう耳にする「いずい」は、使われる状況や会話の流れで、言葉のもつ意味合いが微妙に変化する、とても面白い方言です。
いずいの語源
いずいの語源は、室町時代に幕府が置かれていた、京都で使われていた言葉「えずい」です。
「えずい」は、「身の毛がよだつ」「恐ろしい」という意味で使われていた言葉です。
もともとは京都で使われていた言葉が東北地方に伝わり、心情を表現する言葉「えずい」から体の違和感を表現する言葉「いずい」に変化し、北海道に伝わり東北地方と北海道で定着した言葉です。
そのため「いずい」という方言には、体の違和感に微妙な心情が含まれています。
いずいの意味
いずいは使われる状況や会話の流れによって、意味合いが微妙に変化します。
強いて「いずい」を一言で言うならば「不快な感じがする」になります。
「いずい」は、心情を表す言葉というよりは、体の違和感を表す言葉です。「不快な感じがする」といっても心情を表すというよりは、体の違和感を指します。
北海道では、「痒い」は「いずい」、「むずむずする」も「いずい」、「ちくちくする」も「いずい」、衣服などが小さくて「動きづらい」も「いずい」、衣類などが大きすぎて「しっくりしない」も「いずい」です。
歯が抜けそうで抜けなくても「いずい」、思いのままに体を動かす事ができなくても「いずい」、シーツがしわくちゃで寝づらくても「いずい」です。
泥道など道路の状況で歩きづらい時は「いずい」を使いません、「歩きにくい」と言います。靴のサイズが合わなくて歩きづらい時は「足がいずくて歩きにくい」と言います。
いずいの使い方
北海道の会話で使われる「いずい」を、出来るだけ分かりやすく、「いずい」の意味合いが伝わるように共通語に訳します。
「いずい」を使ってみたい人は、参考にして下さい。
1・オヤジたちの会話
北海道弁
A:「まいった、目がいずくてしょうがない」
B:「どら」 目を見て 「わやだ!でっかい、めっぱができてる」
A:「したっけ、眼科に行く。後のことヨロシク! したっけ」
共通語訳
A:「困った、目が痛くて見づらくてしょうがない」
B:「どれどれ」 目を見て 「大変だ!大きい、ものもらいができてる」
A:「そうしたら、眼科に行く。後のことヨロシク! じゃあね[別れの挨拶]」
2・おばさんたちの会話
北海道弁
C:「昨日買った、ブラがいずいのさ」
D:「ちっちゃいのかい?」
C:「いいや、ブラがでかいのさ」
D:「パットでもテッシュでも、がっぱり入れればいいしょ」
C:「そだねー」
共通語訳
C:「昨日買った、ブラジャーがしっくりしないのよ」
D:「小さいの?」
C:「違うの、ブラジャーが大きのよ」
D:「パットとかテッシュとかを、沢山詰めるといいのよ」
C:「そうね」
3・親子の会話
北海道弁
子:「なんか、ちんちんがいずいんだけど」
親:「なしたの?」
子:「蚊に刺されて、かいてたらこんなになっちゃった」
親:「はんかくさい!」
子:「どうしよう?」
親:「薬つけるから、ちょしたらダメだよ」
共通語訳
子:「どういうわけか、ちんちんがむずむずするんだ」
親:「どうしたの?」
子:「蚊に刺されて、掻いていたら、こういう具合になっちゃった」
親:「バカ!」
子:「どうしよう?」
親:「薬を塗るから、触ったらだめだよ」
まとめ
「いずい」は、北海道や東北地方で使われる方言で、ほとんどの道民が使う道内のどこでも通じる北海道弁です。
「いずい」のもつ意味合い(ニュアンス)を、的確に表現できる共通語・標準語がないので、道民は「いずい」を使い続けます。
私の知人が歯科に行き
「歯がいずくてしょうがないから、なんとかして欲しい」と言うと歯科医師から
「嘔吐く(えずく)なら、内科に行った方が良いですよ」と言われたそうです。
歯科医師は本州出身の人で、「いずい」という方言を理解していませんでした。北海道で医師をするなら、体の状態を表現する北海道弁は理解して欲しいですね。
道民がよく使う、体の状態を表現する方言は、「いずい」の他に「こわい」「めっぱ」「青たん」などがあります。
北海道民は道民意識が強く、北海道の方言に対して好意的で、劣等感をあまり持っていません。それでも、北海道弁を使う道民は、減少傾向にあります。
人は方言に触れると、何らかのイメージを抱きます。
北海道出身の芸能人が全国区で活躍し、北海道弁を全国に広めるのは、とても良い事だと思います。
全国民が北海道弁に触れたとき、【親しみやすい・味がある・表現が豊か・明るい】という良いイメージを持ってくれると、道民として嬉しく思います。