「おっかない」は、おもに東日本で使われる東京弁です。
東日本(糸魚川・浜名湖を結ぶ線より東の地域)で生活している人は、標準語と勘違いしているかも知れませんし、「おっかない」を使わない西日本で生活している人は、北海道の方言(北海道弁)と勘違いしているかも知れません。
東京の方言(東京語)は、山の手言葉と下町言葉に分かれます。
「おっかない」は、下町言葉です。
粋な江戸っ子の心意気を引き継いだ下町の言葉が東京弁として使われている一方で、少し気取った感じのある山の手言葉は、共通語のもとになり全国に浸透しています。
おっかないの意味と語源
おっかないは【恐ろしい・怖い】という意味で使われる東京弁です。
おっかないは東日本の広い範囲で使われている言語ですが、西日本では使われません。おっかないは北海道でもよく使われる言語ですが、北海道の方言ではありません。東京の方言(東京語)の下町言葉(東京弁)が東日本に広く浸透した言語です。
用例
「あそこのお化け屋敷は、すごくおっかない」
「今度の先生は、おっかないらしいぞ」
「とてもおっかない夢をみた」
おっかないの語源は、古語の「おほけなし」が変化したとする説が有力です。
「おほけなし」は、【身の程知らずだ・身分不相応だ・恐れ多い】という意味で使われていた古語です。「おほけなし」が「おっけなし」、「おっかなし」、「おっかない」と変化したとする説です。
「おっかない」の「ない」は接尾語で、形容詞・形容動詞の語幹などの性質・状態を表す語に付いて、その意味「怖い」を強調します。
東京語と東京弁と共通語の違い
東京弁とは、江戸時代から庶民が日常生活で使っていた言葉がもとになっている、東京語の下町言葉です。
共通語とは、東京の都市部で使われている山の手言葉がもとになった、全国どこでも通じる言葉です。
東京が誕生したのは、『江戸』が『東京』に名称変更なった1868年9月です。その後1869年に都が京都から『東京』に遷され、東京は首都としての役割を担います。
江戸が東京になる前、江戸城近辺とその西側の高台(山の手)で生活する大名や武士が使う言葉と、海や川に近いところに発達した地域(下町)で生活する庶民が使う言葉には違いがありました。
東京弁とは幕末から明治初期にかけて、下町で生活する職人や商人などの庶民が使っていた言葉が由来になっている『下町言葉』です。
明治大正時代に日本の文化の中心は、江戸文化の伝統を引き継ぐ首都東京の下町にありましたが、関東大震災(1923年)を契機として、下町文化は衰え首都東京の山の手文化がこれに変わります。
東京語のうち日本の文化の中心になった山の手の『山の手言葉』は、教科書の口語文のもとになり、共通語として全国に浸透します。
山の手の代表的な地域は、麹町・芝・麻布・赤坂・四谷・牛込・本郷・小石川などです。「~でございます」「~かしら?」「ごきげんよう」など気取った感じの言葉が『山の手言葉』です。
下町の代表的な地域は、上野・台東区浅草・深川・墨田区・江戸川区などです。「ひ」を「し」と発音したり、「おっかない」「べらぼう」「やぼよう」など癖の強い言葉が『下町言葉』です。
共通語と標準語の違い
1948年(昭和23年)国立国語研究所が設立され、ここから共通語と標準語を区別する考えが誕生します。
標準語の定義:「なんらかの方法で国として制定された規範的な言葉」
共通語は標準語のように必ずしも規範性を持たず、実用的・現実的なものである。
(『日本語学研究辞典』.「標準語」「共通語」より一部引用)
標準語は、全国に一つしかない、理想的な言語で、共通語は実際に全国的に通用している言語です。
標準語は、音韻・語彙・語法など全ての面で日本語の規範として用いられる言語です。教育・法令などの公用語として用いられる言語です。
共通語は、自然に存在して全国で用いられる言葉で、規範性はなく、国民全員に通用する言語です。
まとめ
おっかないという言葉を私自身ここ数十年使っていないように思います。
子供のころはよく「おっかない」を使っていましたが、ある年齢をすぎたころから「おっかない」より「怖い」を使うようになった気がします。
なぜか「おっかない」という言葉の響きに子供っぽさを感じてしまい、使うのが恥ずかしくなったのかも知れません。
香川の方言「くろみ」、富山の方言「きときと」、宮城の方言「ぺろ」、愛媛の方言「ぽんし」、長崎の方言「ちんちょか」、使うのにはちょっと勇気が必要です。