下町の意味とは~下町を英語にするとこうなる

地方・風習・方言

下町の語源は江戸時代の「御城下町」です。当時、高台には多くの武士が暮らし、低地には多くの庶民が暮らしていました。

将軍様のお膝元で、庶民が暮らす低地(低い土地)が本来の下町です。

現在の下町と呼ばれる街には、かつて武士が暮らしていた高台(山の手)の一部も含まれて、「下町」という言葉の使われ方は、本来のそれとかなり違っています。

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下町の意味とは


本来の下町は、「城下町のうち庶民が暮らす低地」で、その範囲は現在の神田・日本橋近辺だけでした。

明治になると、東京の東部で職人(労働者層)が多く住み着いた地域や、小工場や商店が多い地域を含むようになり、その範囲は深川、足立区、葛飾区、江戸川区におよびます。

現在は旅行ガイドなどで、王子や神楽坂などの高台にある地域も「下町」として紹介し、さらには東京以外の地域も「下町」として紹介しています。

本来の下町は庶民が暮らす低地でしたが、明治以降の下町はその意味と地域を大きくひろげ、現在の下町は「下町」というイメージで使われています。

下町のイメージ

下町のイメージは、いわゆる「下町情緒」です。現在は「下町情緒」がある街を下町と呼び、地理的な要素(土地の高低)に依らない風潮があります。

情緒(じょうちょ・じょうしょ) 大辞林(三省堂)

① 人にある感慨をもよおさせる、その物独特の味わい。また、物事に触れて起こるさまざまな感慨。
 「―のある風景」「江戸―」「―豊かに描写する」

② 〔心理〕情動に同じ。もともと①の意。
 「―不安定」

下町情緒とは、下町だなぁとしみじみと感じることです。

下町だなぁとしみじみ感じる、下町イメージの構成要因は、『グレイン論に基づく街路の下町イメージに関する研究』という論文に記されています。

論文の内容を極めて簡単に言うと、「何があると下町だと感じるのか?」を調査した結果、「下町だと感じるイメージには3つの構成要因(特徴)があると考えられる」ということです。

a)生活感が感じられること

b)住民の連帯感が感じられること

c)歴史性が感じられること

下町イメージの構成要因(特徴)は、植木や看板などが路地に置いてあって「路地を歩くことで民家の庭を通っているような体験ができる」ことで『生活感が感じられる』

椅子が路上に置かれていたり路地に掲示板があって「住民同士の結びつきが強く、連帯しているように見える」ことで『住民の連帯感が感じられる』

古い住居や古い寺社などがあって「江戸時代のものに限らず、明治・大正・昭和を含む歴史性を感じられる建築が現役で使われている」ことで『歴史性が感じられる』の3点としています。

この内容を拡大解釈すると、人情味あふれる人々が住んでいて、伝統を重んじ古くからある風習や物を大切にし、下町言葉を使う威勢の良い人がいて、○○さんちにゴキブリが出たというだけで「てえへんだ、てえへんだ」と町内総出で駆除に奔走するような連帯感と活気のある街が下町イメージということです。

古き良き日本の文化を身近に感じることのできる下町は、人気の観光スポットとして注目されています。

下町を英語にするとこうなる

下町は外国人にも人気の観光スポットです。

下町を英語で訳する時に、ガイドはdowntown一語では使いません。

英語のdowntownの和訳 研究社 新英和中辞典

〔副詞〕商業地区に,都心部に 〔形容詞〕商業地区の,都心の 〔名詞〕商業地区,都心部

Downtownの英語での解釈 Oxford English Dictionary

The lower or business part of a town or city. 低地にある町(街)あるいは オフィス街

downtownの和訳の商業地区という意味は、江戸・明治期の下町に近い感じがしますが、都心という意味もあるので下町と訳すには無理があります。

Downtownの英語での解釈の低地にある町という意味は、本来の下町に近い感じがしますが、オフィス街という意味があるので下町というには無理があります。

いずれの訳も現在の下町を指す言葉としてはふさわしくないので、現在は下町に英語のdowntownを一語で使うことは少なくなりました。

現在は old town を使うことが多いようですが、こちらも一語で下町を表現するには無理があります。

現在の下町を英語で紹介するときは、その街の特徴を紹介して、それをもって「下町」の説明としています。

例えば『浅草』はこのように紹介されています。

① known for is old-town atmosphere and historic Buddhist temples, Asakusa is one of the most traditional districts in Tokyo.

旧市街の雰囲気と歴史ある仏教寺院で知られる浅草は、東京で最も伝統的な地区の一つです。

TAITOUおでかけナビ(英語パンフレット)より一部抜粋

② Asakusa is one of the main amusement centers where the atmosphere of Tokyo’s traditional downtown is still preserved.

浅草は、東京の伝統的な下町情緒を今に伝える人気の観光エリアの一つです。

『英語で伝える日本の文化・観光・世界遺産(山口百々男・著)』より一部抜粋

どちも 伝統的な を意味する traditional を使い歴史性を感じる街(町)を表現し、下町イメージを説明しています。

traditional districts は伝統的な地区を意味し、the atmosphere of Tokyo’s traditional downtown は東京の伝統的な下町の雰囲気を意味します。

downtownだけだとオフィス街と勘違いされがちですが、Tokyo’s traditional downtown とすることで、伝統的な商業地(下町)のイメージを表現しています。

東京以外の下町

現在の下町は、本来の「城下町のうち庶民が生活する低地」という意味で使われることはなく、「生活感が感じられる」「住民の連帯感が感じられる」「歴史性が感じられる」という特徴を持つ地域を指す風潮なので、東京以外にも「下町」と呼ばれる地域は多々あります。

大阪の下町

江戸時代には天下の台所とよばれ、物流・商業の中心地であった大阪にも下町情緒豊かな地域がいくつかあります。

千林商店街・空掘商店街・富田林寺内町・松屋町筋商店街などが大阪で下町情緒豊かな地域です。

重要伝統的建造物群保存地区に指定されている富田林寺内町のような、歴史性の強いスポットがある一方で、生活感を強く感じるどこか懐かしい商店街が多いことが大阪下町の特徴です。

九州の下町

太古より栄え、江戸時代にはお城がたくさんあった九州にも下町情緒豊かな地域はいくつかあります。

福岡県美野島・大分県豆田町・福岡県八女福島などが九州で下町情緒豊かな地域です。

福岡市博多区美野島の商店街には、木造の商店が現役で活躍していて、かつて商店だった木造建物の壁にはホーローの看板が残っていたり、東京の下町よりある意味下町情緒を楽しめます。

北陸の下町

関ヶ原の戦い以降、廃藩置県にいたるまで、加賀100万石として栄えた石川県や、福井県には下町情緒豊かな地域がいくつかあります。

石川県金沢三茶屋街・福井県三丁町・福井県寺町通りなどが、北陸で下町情緒豊かな地域です。

重要伝統的建造物保存地区の石川県のひがし茶屋街や、福井県の寺町は歴史性を強く感じるスポットで、福井県の三丁町は千本格子の家家が軒を連ねる生活感を感じられるスポットです。

東京以外の下町情緒豊かな地域をいくつか挙げました。

本来の意味での下町ではなく、現在の下町イメージを有する地域です。

まとめ

現在の下町には、本来の「城下町のうち庶民が生活する低地」といった定義はなく、これといった定義がありません。

下町は、「下町イメージ」として捉えられ、かつては山の手と呼ばれた地域にも、下町と呼ばれる地域があります。

現在のイメージとしての下町を英語で一語に訳すことはとても難しく、現在はその街の特徴を説明し、それをもって下町を英語で紹介しています。

本来の意味での下町は東京の一部に限られますが、現在の「下町イメージ」の下町は、全国各地に点在していると考えられます。

「下町イメージ」が今後どの様に変化するのか想像できませんが、「生活感を感じること」「住民の連帯感が感じられること」「歴史性が感じられること」の三つの構成要因だけは変わらないと思います。

海外の観光客を呼び込むために、やみくもに「下町」を名乗る行為は、やめてもらいたいものですね。