たばかるの「た」は接頭語、たばかる(謀る)は、もともとは「はかる(謀る)」と同じ意味の言葉です。
「たばかる」も「はかる」も、平安初期から使われていた言葉と考えられていてます。
いまでは、悪いことに用いられることが多い「たばかる(謀る)」、「はかる(謀る)」は、もともと悪いことに限らずに使われていました。
たばかる(謀る)・はかる(謀る)の意味と語源を、わかりやすく解説します。
接頭語とは、単独では用いられずに、必ずほかの語の前に付いて用いられる語。語調を整えたり、意味を付け加えたりする語です。
*お寺の「お」、か細いの「か」、さ迷うの「さ」、どん底の「どん」、ま夜中の「ま」などが接頭語。
たばかるの意味
たばかるの意味
①だます。たくらむ。たぶらかす。まどわす
②方策を考える。工夫する。思案する
③相談する
たばかるは、平安初期のころから使われていたと考えられている言葉で、当時は、②・③の意味で用いられることが多くありました。
今では、ほとんどが①の意味で悪いことの場合に用いられます。
「だます・たくらむ」意味での用例
平家物語(七)「谷へおい落とさうどたばかりけるを」
現代語訳:谷へ追い落とそうと、たくらんでいたのを
現代の用例:「たばかって笑いものにする」「契約者をたばかる」
「工夫する。思案する」意味での用例
竹取物語(燕の子安貝) 「子安貝取らむとおぼしめさば、たばかり申さむ」
現代語訳:子安貝を取ろうとお思いならば、工夫をこらして申し上げよう
現代の用例:「わが国の利をたばかる」
備考)子安貝は、タカラガイ科に属する巻き貝の総称で、古くから安産のお守りとされています。
「相談する」意味での用例
大和物語(一七一)「いかがすべきとたばかりたまいけり」
現代語訳:どうするべきか、相談いたしました
現在、相談する意味で、たばかるを用いることは、ありません(見あたりませんでした)。
たばかる・はかるの語源
たばかるの「た」は、接頭語です。
たばかるは、「はかる」に「た」がついた言葉、たばかるの語源は「はかる(謀る)」、はかるの語源は「謀」です。
漢字の謀の「某」は、くらくてよくわからないという意味で用いられます。
謀は、「言」+「某」で、よくわからない先のことを言葉で相談すること。
たばかる(謀る)もはかる(謀る)も、もともとは、「相談する」という意味の言葉です。
はかる(謀る)の意味
はかる(謀る)の意味
①企てる。もくろむ。画策する。思案する。工夫する
②だます。あざむく
はかるは、たばかると同様に、平安初期のころから使われていたと考えられている言葉です。
げんざいは、①・②の意味で、悪いことの場合に用いられますが、かつては「たばかる」と同じく、悪いことに限らず「相談する」という意味でも用いられていました。
「企てる。もくろむ」意味での用例
平家物語(西光被斬)「あは、これがないないはかりしことのもれにけるよ」
現代語訳:ああ、この人たちが内々で企てたことがもれてしまったよ
現代の用例:「自殺をはかる」「逃亡をはかる」
「だます。あざむく」意味での用例
枕草子(うれしきもの)「我はなど思ひてしたり顔なる人はかりえたる」
現代語訳:自分こそ、などと思って自慢げな顔をしている人をだましたときは、たのしい
現代の用例:「契約者をはかる」「世をはかる」
「相談する」意味での用例
宇津保物語 「いささかなること、はかりきこえむとぞや」
現代語訳:ちょっとしたことを相談したいというのだろうか
現在、相談するという意味の「はかる」は、「諮る」または「計る」と記します。
まとめ
たばかる、はかる、どちらも漢字で書くと「謀る」、どちらも今では、おもに悪いことに用いられる言葉です。
たばかる、はかるの意味は、くわだてる・だます・たくらむ・もくろむ・思案する・工夫する・相談する。
たばかるの「た」は、接頭語で、「た」一文字では、意味をもちません。
たばかるは、「はかる」からできた言葉で、はかるは漢字の「謀」からできた言葉。謀は、「言」+「某」で、よくわからない先のことを言葉で、相談すること。
たばかるもはかるも、もともとは、悪いことに限らずに、相談すること、という意味でした。
余談ですが、男3つ(森のような構成)で、たばかると読む国字だという説がありますが、私が調べたところ国字に、そのような字はありませんでした。
ちなみに、姦、嫐、嬲という漢字はちゃんと辞書に載っています。
姦の読みは【音・カン。ケン/訓・かしましい。よこしま】、嫐の読みは【音・ドウ/訓・うわなり。なぶ(る)】、嬲の読みは【音・ジョウ/訓・なぶ(る)】。