ホルモンの語源は、動物の体内組織や器官の活動を調整する生理物質を意味するドイツ語の「Homom」です。西洋医学の影響を受け、明治初期に栄養豊富で活力がつく食べ物として「ホルモン」と名付けられました。
広義に解釈するとホルモンは、牛や豚などの家畜から食肉を生産する際に生産される内蔵などの「畜産副生物」を指し、狭義に解釈すると牛や豚などの「腸」の部位を指します。
日本人がいつの時代から内蔵を食べてきたかは明らかではありませんが、先史時代の貝塚の中から鹿や猪の骨や角が発見されていることから、先史時代には獣肉とともに内蔵も食べていたと考えられます。
ホルモンの語源と食の歴史
ホルモンの語源には、大阪弁の「捨てるもの」を意味する「放るもん(ほうるもん)」説や、医学用語であるドイツ語の「Homon」や英語の「homone」説など諸説あります。
現在、もっとも有力とされてるホルモンの語源説は、医学用語でドイツ語の「Homon」で、明治初期に西洋医学(おもにドイツ)の影響を受け、栄養豊富で活力がつく食べ物を「ホルモン」と名づけたとする説です。
大阪でホルモン料理が発祥したとする根拠が薄いこと、戦前からホルモン料理の名称が使われていて、戦前は内蔵料理に限らずスタミナ料理全般(すっぽん料理など)をホルモン料理と呼んでいたことから、大阪弁の「放るもん」説は信憑性が薄いと思われます。
天武4年(675年)、天武天皇は「殺生禁止令」いわゆる「肉食禁止令」を発令します。以後、明治4年(1871年)に明治政府が「肉食禁止令」を廃止するまで、日本では肉食同様に内蔵も食べることはありませんでした。
肉食禁止令が廃止されると、おもに欧米人の居留地に「と畜場」(現在の食肉センターや食肉市場)ができます。と畜すると食肉の他に、「皮・内蔵・骨・脂肪・血液」が生産されます。内蔵は、内蔵専門業者に売却された後、卸商に売渡されて、街の露店、屋台、大衆居酒屋などで、「串焼・煮込み」などに調理されて客に提供されました。
第2次世界大戦期に、国民の貴重な食料資源として、内蔵は一般家庭にも広がります。戦後の食料不足の時代に、内蔵などの副生物の価値はじょじょに高まり、関東では「やきとん・煮込み料理・もつ料理」、関西では「焼肉・ホルモン焼き」などの副生物料理が一般大衆に受け入れられようになります。
家畜から食肉を生産する際に生産される「皮・内臓・骨・脂肪・血液など」のうち、皮以外の内蔵などを「畜産副生物」といいます。畜産副生物という名称ができる前は、「もつ」「ホルモン」という呼び方が一般的で、「内臓」と呼ばれていたこともありました。
昭和40年代以降、高度成長期を背景に食肉の需要が拡大し、それにともない副生物の需要も拡大していきます。
昭和から平成に時代が変わると、一般消費者にも内臓肉(副生物)は認知され、全国のスーパーマーケットなどでもホルモンは扱われるようになり、全国に広がります。
現在、ホルモンは「ホルモンがない焼肉店がない」ほど人気の食肉となりました。
ホルモンとは
広義に解釈するとホルモンとは、牛や豚などの家畜から、食肉を生産する際に生産される「畜産副生物」のことで、皮以外の内臓などの部位です【牛は、部分肉42%、畜産副生物50%、原皮8%。豚は部分肉50%、畜産副生物41%、原皮9%】。
ホルモンの種類は非常に多く、全国食肉公正取引協議会の「副生物の部位の名称」では、牛の副生物の部位は29種類、豚の副生物の部位は19種類、馬の副生物の部位は7種類に分けられています。
狭義に解釈するとホルモンは、「腸」の部位を指します。焼肉店などでは、タン・ハラミ・ミノなどは、それぞれの部位名称をそのままメニューとして提供し、「腸」の部位を「ホルモン」として提供しています。
副生物の部位表示(全国食肉公正取引協議会 お肉の表示ハンドブック参照)
○牛・豚の部位名称は下記のとおりとします。
但し、従来の商慣習、地域特性により使用されている名称でも表示可能です。
牛の副生物の部位表示
1・ホホニク(ツラミ)/頬肉 2・タン/舌 3・ハツ(ハート)/心臓 4・ハツモト/下降大動脈 5・レバー/肝臓 6・ハラミ/横隔膜 7・サガリ/横隔膜 8・メンブレン/横隔膜 9・マメ/腎臓 10・ハラアブラ/胃・腸周囲脂 11・フワ/肺臓 12・ミノ/第1胃 13・ハチノス/第2胃 14・センマイ/第3胃 15・ギアラ/第4胃 16・ショウチョウ/小腸 17・モウチョウ/盲腸 18・シマチョウ(ダイチョウ)/大腸 19・チョクチョウ(テッポウ)/直腸 20・チレ/膵臓 21・スイゾウ/膵臓 22・リードボー/胸腺 23・ウルテ/気管 24・ショクドウ(ノドスジ)/食道 25・チチカブ/乳房 26・コブクロ/子宮 27・テール/尾 28・アキレス/アキレス腱 29・スジ/引きスジ
*横隔膜のうち筋肉部をハラミ(肋骨・腕骨部)及びサガリ(腰椎部)、筋肉部以外の腱中心等をメンブレンといいます。
*スジは通常、枝肉・部分肉の引きスジを言います。
*牛の消化器(胃・腸など)と子宮を総称して「シロモツ」と表示してもかまいません。
豚の副生物の部位表示
1・カシラニク/頭肉 2・ミミ/耳 3・タン/舌 4・ハツ(ハート)/心臓 5・レバー/肝臓 6・ハラミ/横隔膜 7・マメ/腎臓 8・フワ/肺臓 9・ガツ/胃 10・ショウチョウ/小腸 11・ダイチョウ/大腸 12・チレ/膵臓 13・スイゾウ/膵臓 14・リードボー/胸腺 15・ウルテ/気管 16・ショクドウ(ノドスジ)/食道 17・チチカブ/乳房 18・コブクロ/子宮 19・トンソク/足
*豚の消化器(胃・腸など)と子宮を総称して「シロモツ」と表示してもかまいません。
馬の副生物の部位表示
1・タン/舌 2・レバー/肝臓 3・シロモツ/大腸・小腸・胃 4・テール/尾 5・アキレス/アキレス腱 6・スジ/引きスジ 7・タテガミ(コーネ)/たてがみの脂肪
美味しいホルモンの部位
ホルモンの種類は牛で29種類、豚で19種類ととても多く、それぞれ食感も味覚も違います。
1・タン(牛)
ミネラル豊富で肉の部位より脂肪分が少ない。薄切りの「タン塩」は焼肉の人気メニュー。ブロックに切り分けたタンを用いたタンシチューは洋食店の人気メニュー。
2・タン(豚)
付け根のほうが上等で歯ごたえがある。焼肉のほか、くん製なども人気。
3・ハラミ(牛)
肉厚で脂質が豊富。カルビと同じくらいジューシーでやわらかい。焼肉ではカルビ、タン塩と並ぶ人気メニュー。
4・ミノ(牛)
低カロリーで4つの胃のなかでもっとも大きい。牛一頭から少量しかとれない「上ミノ」は、貝柱のような食感で焼肉で人気メニュー。
5・シマチョウ(牛)
ショウチョウより肉厚で、あまみのある脂身とシコシコした食感が特徴。焼肉で人気のメニュー
6・ショウチョウ(牛)
たっぷりの脂がのっていて、プルプルとした食感で美肌効果抜群。マルチョウと呼ぶ地域もあり、焼肉のほかもつ鍋でも人気の部位。
7・ハツ(牛)
ビタミンB1が豊富で、疲れやストレスの解消に効果的。くせのない味でコリコリとした食感が特徴。
8・レバー(牛・豚)
鉄分・ミネラル・ビタミンA群・ビタミンB群が豊富、貧血気味のかたにおすすめの部位。味は濃厚で、レバニラ炒めは人気のメニュー。
9・とんそく(豚)
コラーゲンが豊富。沖縄では「てびち」とよばれ、煮物は人気メニュー
10・センマイ(牛)
4つの胃のなかでもっとも鉄分が豊富で低カロリー。ひだのような形で、コリコリとした独特の食感。軽く下茹でし、細切りにしたセンマイ刺しは、焼肉店などで人気のメニュー。
まとめ
ホルモンを牛や豚の内臓と勘違いしていたかたも多いのではないでしょうか。
焼肉屋で何気なく注文している「タン」や「ハラミ」もホルモン、おでん屋で注文している「スジ」もホルモン、沖縄料理の「てびち(とんそく)」や「ミミガー(みみ)」もホルモンです。
北海道で生まれ育った私にとって、ホルモンといえば「腸」というイメージが強いです。
現在でも、北海道のほとんどの焼肉店で、ホルモンを注文すると「シマチョウ(ダイチョウ)」や「ショウチョウ」が出てきます。私の経験では、全国どこの焼肉店でもホルモンというと「腸」の部位を指すようです。
北海道の「もつ煮」で腸以外の部位が入ったものを食べたことがありませんが、以前、大阪を訪れた際に「もつ煮」を注文したところ、「腸」以外のいろいろな部位が入っていて驚きました。
ホルモンの捉え方は、地方によって、あるいは育ってきた環境によって、異なりますが、焼肉店では一般的に「腸」の部位を指すようです。
ホルモンは広義に解釈すると「畜産副生物」、狭義に解釈すると「腸」を指します。