耳障りが良い言葉は間違い?本来の意味と正しい使い方を説明します

耳障り 言葉

日本語の使い方を間違えると、相手の気持ちを損ねたり、自分への評価が下がったりします。

言い間違いや間違った意味で使われている日本語は意外とあります。

「耳ざわり」も意味を間違えて使われる日本語です。正しい使い方をおさらいして恥をかかないようにしたいものですね。

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耳ざわりの意味とは?「耳障りが良い言葉」は間違いか?

「耳障り」を声に出して読むと「みみざわり」、「耳触り」を声に出して読むと「みみざわり」、どちらも同じ発音になります。

口語(はなし言葉)では、同じ「みみざわり」でも、「耳障り」と「耳触り」の意味は全く異なります。一般的には、「みみざわり」は「耳障り」の意味で使われます。口語で「みみざわり」文語(書き言葉)で「耳ざわり」を使う場合は、「耳障り」の意味で使用します。

広辞苑のように「耳触り」と表記する語が、項立てされていない辞書がある一方で、大辞林のように「耳障り」・「耳触り」と表記する語が、別に項立てされている辞書もあります。

「広辞苑 第6版」(岩波書店)
みみざわり【耳障り】聞いていていやな感じがすること。聞いて気にさわること。▽「―がよい」というのは誤用。

「明鏡国語辞典 第2版」(大修館書店)
みみざわり【耳障り】〔名・形動〕聞いていて不快に感じること。▽「耳触り」と解し「耳触りがよい」のように使うのは、本来は誤り。「目障り」についても同様。

「日本国語大辞典 第2版」(小学館)
みみざわり【耳障り】〔名〕(形動)聞いていて、気にさわること。聞いていて不愉快に感じたり、うるさく思ったりすること。また、そのさま。
みみざわり【耳触り】〔名〕聞いた時の感じ、印象。

「大辞林 第3版」(三省堂)
みみざわり【耳障り】〔形動〕聞いていて不愉快またはうるさく感じるさま。
みみざわり【耳触り】聞いた時の感じ。

「大辞泉 第2版・下」(小学館)
みみざわり【耳障り】〔名・形動〕聞いて気にさわったり、不快に感じたりすること。また、そのさま。
みみざわり【耳触り】聞いた時の感じ・印象。

「耳触り」は、以前は完全に誤用とされていましたが、現在は「聞いた時の感じ」という意味で載せる辞書もあり、「耳触りが良い」という使い方は正用という風潮があります。

ほとんどの新聞では、「耳触りは誤用では?」という読者の声が多いという理由で、「耳触り」を使用しません。新聞では、「耳触り」は「聞き心地」などと表現されます。

文化庁が実施している「国語に関する世論調査」(全国の16歳以上の男女3000人を対象)で、「耳ざわり」の意味を調査した結果は次のとおりです。

(ア)聞いた時の感じのこと       8.8%
(イ)聞いていて気にさわること     86.5%
(ウ)(ア)と(イ)の両方       2.3%
(エ)(ア)と(イ)とは全く別の意味  0.6%
(オ)分らない             1.8%

「耳障り」と聞かずに「耳ざわり」と質問しているのに、86.5%の人が「耳障り(聞いていて気にさわること)」と判断していることが分かります。「耳触り(聞いた時の感じのこと)」と判断している人は(ア)と(ウ)をたしても11.1%しかいません。

文語(書き言葉)として「耳障りが良い言葉」は誤用です。新聞などで表現されている「聞き心地のよい言葉」「耳に心地よい言葉」が正用です。
口語(話し言葉)として「みみざわりが良い言葉」は使わないのが賢明です。85%以上の人が「みみざわり」を「耳障り」と判断しているからです。「耳触り」という意味で話したいなら「耳に心地よい言葉」や「聞き心地のよい言葉」と表現するのが無難です

耳ざわりの英語訳

日本語の口語では区別のつかない「耳障り」と「耳触り」は、英語では全く違う表現(語)になります。

耳障りの英語訳は harting one’s ears または earsore が一般的です。

hartingの意味は、「傷んでいる」「傷」「ひりひり」、earの意味は「耳」です。聞いていて耳がひりひりする=耳障り

earsoreは、ear(耳)+sore(ひりひりとした痛み)。耳がひりひりと痛い=耳障り

「その音楽は耳障りだ」は、The music is an earsore. です。

耳障りの英語訳は他に、harsh、 ungly、rasping、などがあります。

a harsh voice は耳障りな声、an ugly soundは耳障りな音を意味します。

耳触りの英語訳は the feeling one gets from listening to something  が一般的です。

feelingの意味は「感触」「感覚」「気分」「思い」、getの意味は「得る」「持つようになる」、listeningの意味は「聞くこと」、somthingの意味は「何か」です。何かに耳を傾ける気持ち=耳触り

「聞き心地のよい言葉」は Comfortable words または A good word of hearing です。

耳障りな音について

耳障りな音のなかには、世界中に共通する音があります。爪で黒板をひっかく音やガラスをフォークでひっかく音、あの甲高い『キーーッ』という音です。

これらの音は、感情や環境に関係なく、聞くとゾクッと背筋に寒気がはしり、世界中の大半の人が不快に思っています。世界中で多くの研究者が、「特定の音にストレスを感じる原因」を研究しています。

食時中の咀嚼(そしゃく)音や、大音量の音楽、電話から漏れてくる声などとは違います。

「くちゃくちゃ」と音をたてて食べている相手が大嫌いな人だと「耳障りな音」になるけど、大好きな人だと気にならないはずです。
自分の嫌いな音楽だと、うるさい「耳障りな音」になるけど、大好きな音楽だと心地よく聞こえるはずです。
全く知らない他人が大声で電話で話している声は「耳障りな音」になるけど、大好きな人の声だと聞き惚れることもあるはずです。

世界中に共通する「耳障りな音」は、音を発している相手や環境にかかわらわらず、聞くと必ず不快に感じる音です。

2012年にニューキャッスル大学で行なわれた研究で、音声を処理する聴覚皮質と、怒りや恐怖などの感情に関与する扁桃体の間に強い関係性があることが発見されました。

あの『キーーッ』という不快な音を聞いたとき、脳の扁桃体という部位が聴覚皮質に影響し、神経を敏感にし、ネガティブな感情を起こさせ、不快に感じるという研究結果ですが、詳しい原因は分かっていません。

以前は「耳障りな音」は、特定の周波数帯(2000から5000ヘルツ)の音という説や、遠い祖先が持っていた反射行動の名残という説が有力でしたが、その後の研究で特定の周波数帯によるものではないことが証明され、遠い祖先の反射行動ではない可能性があることが証明されました。

現在は「爪で黒板をひっかくイメージを覚えていたり、自分の爪をひっかくことを想像して、それが恐怖を呼び起こす」という説もありますが、黒板を爪でひっかいた経験のない子供が、ストレスを感じるという矛盾もあって、完全な原因とは言えないようです。

発達障害のある人の中には、特定の音に反応したり、多くの人にとって気にならない音が耐え切れないほど耳障りな音に感じられる人がいます。

聴覚の過敏性はASD(自閉スペクトラム症)の人に多くみられる特性です。

ASDの聴覚過敏は、脳の情報処理に原因があると考えられていますが、詳しい原因は分かっていません。

「耳障りな音」を不快に感じる原因には、たくさんの異なる可能性があって、いまだに絶対的な答えは得られていません。

「耳障りな音」が、消えてなくなるのは、まだまだ先になるようです。

まとめ

「耳ざわりがよい言葉」や「耳ざわりがよい曲」という言葉を耳にしたり目にすると多くの人が違和感を覚えます。

以前「耳触り」という語は誤用とされていました。近年は「耳触り」と表記する語を項立てしている辞書もあり、「耳触り」を正用とする風潮がありますが、大多数の人は「耳ざわり」を「耳障り」と判断しています。
「耳障り」の意味は「聞いていて気にさわること」「聞いて不快に感じること」です。「耳触り」の意味は「聞いた時の感じ・印象」です。

文語で使用する「耳障りが良い言葉」は間違いです。

口語で「みみざわりが良い言葉」は使用しないのが賢明です。大多数の人は「みみざわり」と聞くと「耳障り」と判断します。「聞き心地のよい言葉」を使うのが無難です。

ほとんどの新聞では「耳触り」を使用しません。「耳触りが良い言葉」は「聞き心地のよい言葉」「耳に心地よい言葉」と表現されます。

「耳ざわり」の意味をしっかり理解し、正しい使い方をして、恥をかかないようにしましょうね。

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