北海道で「ぼっこ」と言うと、棒やミトン(mitten)を意味します。発声するときは、語尾のこを少し強めに発声します「ぼっこ↑」。もともとは東北地方で使われていた「ぼっこ」が北海道に伝わり、北海道全域に広まり北海道に定着した語です。
北海道でも「日向ぼっこ」と言うと【ひなたで日光に当たって暖まる】ことを意味し、フルボッコは【フルパワーでボコボコにする】ことを意味します。
「ぼっこ」は、岩手県、静岡県、香川県、福島県などでも用いられる方言で、それぞれ独自の意味で使われています。
北海道の方言「ぼっこ」の意味
北海道の方言「ぼっこ」には「棒」と「ミトン」二つの意味があります。
棒
北海道では、棒状の物を「ぼっこ」と言います。
「ぼ(棒)っこ」の「っこ」は、「どじょっこ」「ふなっこ」や「娘(むすめ)っこ」の「っこ」と同様に用いられる語です。
名詞の語尾に「っこ」を付け足すことで、名詞(棒、どじょう、ふな、むすめ)を親しんで、また軽んじて用います。
東北地方では名詞に「っこ」を付ける方言が数多くあることから、「ぼっこ」は東北地方から北海道に伝わり、北海道で広まり定着した語と思われます。現在も東北地方の一部で「棒」という意味で「ぼっこ」が使われています。
岩手県では赤ちゃんのことを「おぼっこ」、青森県では小銭(だらせん)のことを「だらっこ」と言います。また、童謡「どじょっこふなっこ」は、もともと東北地方(おもに秋田県)で広まっていた「わらべうた」だったという説が有力です。
ミトン mitten
北海道ではミトンのことを「ぼっこ」または「ぼっこ手袋」と言います。
ミトンは指を入れる部分が親指だけが分かれて、残りの指をひとまとめにした手袋です。指ごとに分離した手袋(グラブ)の原型とされています。
私が子供のころは、同級生のほとんどが「ぼっこ手袋」をはいていました。その多くは毛糸で編まれた、手作りのもので、とても暖かったことをおぼえています。
最近は「ぼっこ手袋」の「ぼっこ」を差別用語だとする人がいますが、北海道民は「ぼっこ」を差別用語として使っていません。「ぼっこ手袋」は今も多くの北海道民に愛されるている、とても暖かい手袋です。
ぼっこの使い方(北海道弁)
北海道では、木製の棒は「ぼっこ」、鉄製のパイプも「ぼっこ」、プラスチック製の棒も「ぼっこ」です。
ストローのように軟らかく、少し力を加えただけで変形したり折れてしまうような棒状のものは「ぼっこ」と言いません。
手で持てないような長い棒も「ぼっこ」とは言いません。道民が「ぼっこ」と言って想像するのは、せいぜい長さが1メートル程度までの棒です。
実際は「棒」ではない、ハイフォン(‐)やオーバーライン( ̄)のような記号を、「ぼっこ」と言う道民もいます。とくに高齢者は、ハイフォンとは言わずに、「ぼっこ」と言います。
北海道弁以外の「ぼっこ」の意味
日向ぼっこの「ぼっこ」は、「ほっこり」の語尾が省略された語です。「ほっこり」には、【いかにも暖かそうなさま。ほかほか】という意味があり、日向ぼっこは【ひなたで日光に当たって暖まる】という意味です。
フルボッコの「ぼっこ」は「ボコボコ」という【肉体的な暴力のイメージや精神的なダメージを与えるイメージ】で用いられる語です。フルボッコは【フルパワーでボコボコにする】という意味です。
岩手県の「ぼっこ」
岩手県では、「ぼっこ」を【童子(わらし)・子供】という意味で用います。
宮沢賢治著「ざしき童子(ぼっこ)のはなし」は、おもに岩手県に伝えられている神霊、妖怪「座敷童子(わらし)」にまつわるエピソードを紹介したものです。
ざしきぼっこは童子の姿をしていて、ざしきぼっこ(座敷童子)がいる家は栄えると言われています。
岩手県に伝わる「くらぼっこ」も妖怪で、背丈は子供ほどで、蔵の守り神とされています。
静岡県の「ぼっこ」
静岡県では「ぼっこ」を【古い・ぼろ・壊れる】という意味で用います。
ぼっこいテレビ:古いテレビ。ぼっこいボール:汚いボール。テレビがぼっこれちゃった:テレビが壊れちゃった。この時計ぼっこだけど使う?:この時計古いけど使う?。
香川県の「ぼっこ」
香川県では「ぼっこ」を【非常に・あほ(ほっこ)】という意味で用います。
ぼっこ大きくなった:非常に大きくなった。くそぼっこ:大バカタレ(かなりキツイ、汚い言葉です)
福島県の「ぼっこ」
福島県では【靴底にくっつく雪】という意味で用います。
外でぼっこ落として家にはいれ:外で靴の雪を落としてから家に入りなさい
まとめ
「ぼっこ」も道民がよく使う北海道弁です。
「そこのぼっこ取ってくれ」「目印にぼっこ刺しとけ」「危ないからぼっこ振り回すな」「ぼっこ手袋」「○○○ぼっこ○○@google.com」・・・道民はよくぼっこを使います。
フルボッコはフルパワーで「ボコボコ」にすることです。日向ぼっこは「ひなで日光に当たって暖まる」という意味です。共通語で「ぼっこ」は、悪いイメージと良いイメージ両方で用いられます。
「ぼっこ」という一語に様々な意味があり、地域によっても意味が異なります。「ぼっこ」という語はとても面白い語です。
私は今でも冬の屋外での作業のときは、「ぼっこ手袋」をします。子供のころのような毛糸の手作りではなく合皮製ですが、しばれる屋外では「ぼっこ手袋」のほうが暖かく感じるからです。
ぼっこを差別用語とする人がいますが、道民は差別意識をもって「ぼっこ」を使っていません。
北海道弁は北海道の文化です。私は、いつまでも「ぼっこ」を使い続けます。